2016年3月23日水曜日

Climbathon2015 参加報告

遅くなりましたが、昨年8月にインドヒマラヤで行われた登山研修の報告です。


Climbathon 2015とは

IMF(インド山岳財団)が主催し、UIAA(国際山岳連盟)がサポートしている、アルパインスタイルでのヒマラヤ登山のリーダー養成プログラム。2013年から始まり、今回3回目の開催である。

前半は20項目以上のディスカッションと参加者の経験や知識を共有し、訓練を行いながら、実践で登山遠征隊(Expedition)のリーダーとして経験を積み、後半はチームごとに地図分析や偵察をして目標のピークを決め、アルパインスタイルで登頂を目指す。

ヒマーチャルプラデーシュ州Manaliの登山研修所を出発し、Spitiのバラシグリ氷河でベースキャンプを設置する。

詳細 
http://theuiaa.org/upload_area/Climbathon-2015.pdf


期間:2015年8月4日―27日


参加人数:30名


参加資格:

18歳から35歳までの男女。インド国内の登山研修所でアドバンスコースまで修了した者、またはそれと同等のトレーニングを受けており、過去三年以内に登山遠征を経験している者。


体力基準:

10km続けて走れる者。20㎏以上のザックを担いで300-600mの高度差を6-8時間歩き続けられる者。


選考方法:

申込者は、3月末までに申込書をIMFに発送し、受付が終了するとIMFからLOG BOOKというリーダーシップに関しての沢山の質問表が送られてくる。それを記入したのち、規定の健康診断書と共に5月15日までにIMFに返送、その後選考があり、電話面接の後、6月初めに参加者に通知が送られてくる。


費用:外国人 USD500

また、外国人の救助費用は実費となるので、救助保険の証書のコピーの提出が必要となる。


トレーニングの様子:

30名が5つのチームに分けられ、基本チーム毎に動いていく。

前半はBCまではリーダーシップのトレーニングプログラムがみっちり組まれている。
例1)本部のスタッフが概要を説明した後、担当のチームがロールプレイをする。【→Expedition中、ハイキャンプに到着後、テントを設置しチームメンバーは休養していたが、知らないうちにメンバーの一人が単独で登りに行き、滑落して頭と足首を負傷した。彼がいないことに気づいた他メンバーが探しに行くと、倒れている彼を見つけた。】
担当チームはその先の対応を考えて良い・悪い対応例を演じる。その後、参加者全員でディスカッション。最後に本部スタッフが総括する。

例2)環境査定
キャンプ地でチーム毎にパートを分けてゴミを拾い、量や内容を分析、各チーム代表者が発表する。


後半はアルパインクライミングの計画と実践。
チーム毎にHCにてキャンプ・クライミングの予行演習を行ったのち、BCに戻りルート選定、食料、装備等の登山計画を立て、偵察を行い、チームメンバーでルート開拓をして与えられた4日間で登頂を目指す。


バラシグリBCまでのルート

BATAL (3990m)からSNOUT CAMP (4030m)
CHANDRA river 東側を南下し、BARA SIGRI川の河口手前平坦な川原道。最後に小さなモレーンを越えるとSNOUT CAMP。

SNOUT CAMP - Intermediate CAMP
ひたすらモレーンの上り降り。

Intermediate CAMP - BC(4990m) 
モレーンを半日超えていくと、バラシグリ氷河の上に出る。クレバスに気をつけながら上流に向かっていった左側サイドモレーン上にBCが設置されている。


山行中の生活

〈前半〉
食事… ほぼインド料理。キッチンスタッフが用意。
朝はチャイ、アルダム等(じゃがいものカレー)、チャパティ、コーンフレーク等。
昼食、夕食はダール(豆のカレー)、サブジ(野菜のカレー)、たまに肉カレー。
他に1日3回チャイ、夕食前にスープが出る。

トイレ…SNAUT CAMPまではトイレ用テントを用意してくれる。なぜか女性メンバーとインストラクター用のみ。男性は外で。2016年は全員用に立てるとのこと。

テント…同じチームで男女別、2,3人ずつ1テント利用。

装備の運搬…個人装備以外はポーターがBCまで運搬

〈後半〉
食事…ハイキャンプでの演習からは各チームで食料、食器を選定、計算しBCで用意する。
食料は、主にMTRという会社が作っている真空パックのカレーやご飯、水で溶いて作るポハ(南インド料理)やスープ、マギー(インスタントラーメン)、チョコレートやドライフルーツなどの行動食
鍋等食器は特に登山用ではないので、重いしお湯を沸かすにも時間がかかる。
調理はチームメンバーが順番にする。
トイレ…キャンプサイト毎に男女別トイレエリアを決める。穴を掘って用をたし、埋める。

テント…6名2テント。3人用テントなので大きい人がいるときつい。

装備の運搬…共同装備、食料全てチーム毎に分担して持っていく。


日程:

8月4日ABVIMAS(MANALIの登山研修所)に集合
         
イントロダクション
 自己紹介
ゲーム(リーダーシップについて考える)
装備チェック

8月5日ABVIMAS

チーム分け
ロールプレイとディスカッション
-        災害時の村との話し合い
-        チームメンバーから不満が出てきたときの対応
パッキングの知識共有

8月6日Batalへ移動(ジープ)

ロールプレイとディスカッション
-        雪崩が起きた時の対応について

8月7日Batal - Snout Camp (トレッキング)

実践とディスカッション
-        リバークロッシング
-        アクリマタイゼーション(高地順応)

8月8日Snout Camp

講義、ロールプレイ、ディスカッション
-        チーム内で対立があった時、危機的状況におちいったとき
-        ジェンダー
-        ファーストエイド
-        倫理
登山中の事故や経験の共有
高地順応ウォーク

8月9日Snout Camp

講義、ロールプレイ、ディスカッション
-        リスクアセスメント
-        メディカル
-        キャンプの基本と衛生管理  
-        登山遠征中の環境査定 (ゴミを拾って分析)

8月10日Snout Camp – Intermediate Camp(トレッキング)

山での状況判断、感覚を鍛える
(天気、ハザード、安全の判断、メンバーのパフォーマンスの変化、コミュニケーション、リーダーシップ等の要素を基に)
休憩中にチーム毎に上記を発表&ディスカッション
ポンチョやビニールシートで雨除けを作ってビバーク

8月11日Intermediate Camp - BaraSigri Base Camp(BC)(トレッキング)

山での状況判断、感覚を鍛える
(天気、ハザード、安全の判断、メンバーのパフォーマンスの変化、コミュニケーション、リーダーシップ等の要素を基に)
休憩中にチーム毎に上記を発表&ディスカッション

8月12日BC

登山遠征中の環境査定 チーム毎にパートをわけてゴミ拾い、分析
実践と知識共有
-        氷河ウォーク
-        ガスバーナーの使い方
-        地図読み(チームへ地図の配布、目標のピークを考える)

8月13日BC (High Camp移動の予定を変更)

-        氷河ウォーク
実践と知識共有
-        クレバスレスキュー
装備と食料の配布

8月14日BC からHigh Camp (HC)へ氷河トレッキング

-        モレーン上にテント設置
-        チーム毎に調理
-        アイスクライミング(リード、ユマール、ラッペリング)

8月15日HC から Gunther’s Col上まで 氷河トレッキング、HC泊

Gunter’s Colにてセレモニー(インドの独立記念日)
-        チーム毎にロープアップしてハイトゲイン
-        チーム毎に調理

8月16日HC - BC

-        テント撤収
-        アイスクライミング (2 piton climbing, Abalakov anchor)

8月17日BC – チーム毎にルート偵察(Recci)
BC南方正面に見える未踏峰ピークを目指し、HCの先に5200m付近まで偵察に行く。キャンプ地の選定をする。

8月18日BC

遠征計画のプレゼン
チーム内役割の決定と遠征の準備
クライミング、ファーストエイド、コミュニケーション、装備、食料の各担当ミーティング

8月19日BC(4900m)– HC - Camp1(5420m)

BCと氷河上に本部、中継地が設置され、レスキューチームが控える。
6チームがそれぞれの行動を1日2回無線で連絡する。

わがチームのメンバー構成
インストラクター
アセッシー(リーダー)
フォトグラファー(クライミングリーダー)
ファーストエイドリーダー
ファーストエイドサブリーダー
コミュニケーションリーダー(無線連絡)
装備担当
食料担当

偵察時にキャンプ1にするつもりだったところに早く到着したので、そのままクレバスをいくつも越えて先まで行く。
CATHEDRAL peak直下のBERGSHRUNDが見えるフラットな氷河の上にテントを設置。
昼食後、ルート開拓組がロープを一本貼りに行く。

8月20日Camp1 (5420m)– Summit Camp(5650m)
高さ約160m以上、約70°のアイスウォールを先頭が代わり替わりロープ5本をFixし、他メンバーはユマールで続く。
最後尾はロープ、ピトン回収。
アイスウォールを登ってみると、目的のピークへの地形は切れ落ちていて、予定内の日程では行けそうにない。そのため、西方のCATHEDRAL(6100m)に明朝アタックすることに決める。

8月21日Summit Camp – Cathedral 登頂(6100m) – Summit Camp
4:50出発。鍋に入れた氷が一時間沸かせても溶けない。飲み水の作成が間に合わなかった。ロープアップして出発。クレバスに足をとられながら、コルを超え、岩氷ミックスの急斜面をフロントポイントで登る。最後20mスノースティックとアイスピトンでロープを固定し登る。7:50全員登頂。天気は山頂まで風もなくクリアだった。
写真をとって下山。Summit campに着くころから湿った雪が夕方4時頃まで降り続いた。

8月22日Summit Camp – C1 – HC – BC
ロープfix組が先に下りてルート工作。他はテントを撤収して下りる。往路と同じルートを使用。
17:00ベースキャンプ到着、全チームのなかで1番最後の到着だった。

8月23日BC – Intermediate Camp (女子メンバーのみ。男子メンバーはBC)

8月24日Intermediate Camp – Snout Camp

8月25日Snout Camp – Batal – AVBIMAS, Manali (ジープ移動)

8月26日Manali 打ち上げパーティ

8月27日証明書受取、解散

      感想
私は本年の秋に合同登山隊を計画しており、良い経験になると思い参加しました。
すでに各登山コースを修了しているので、特に生活や技術面での困ったことは食事以外はありませんでした。実技講習のほとんどが登山コースで学んだことの復習です。
前半はディスカッションの時間が多く割かれていて、英語とヒンディー語の弾丸トークで途中でわからなくなることもよくありましたが、皆の前で自分の意見をきちんと言えるよう努力しました。

食事は辛いものがあまり食べられないので、BCではゆでたまごやじゃがいもをお願いしましたが、ある時とない時がありました。基本はある食事で何とかしなければなりません。口内炎がひどくなり辛かったです。

今回技術、人間的に素晴らしいインド人クライマーに何人も出会えたことは、一番の収穫だったと思います。
ただ多くの参加者は体力レベルのばらつきが相当あり、BCまでたどり着かないのではないかというメンバーもいましたし、長期山行で疲れてくると、だんだんと時間が守れなくなったり、担当の仕事をさぼったりと、そういったメンバーとのコミュニケーションについても、非常に考えさせられるトレーニングでした。

今年は東カラコラム山脈で行われます。
英語でディスカッションのできる若いクライマーの皆さん、挑戦してみませんか?
http://www.indmount.org/FormAdmin/201602150027240772_climbathon%202016.pdf